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聖ミカエルの

辻宮氏の墓所です



「墓所?」
 近づいてみるとそれは、石造りの塔のような建物だった。
 と、塔の入り口から一組の男女が出てきた。若い女性と、私と同年代くらいの男だ。
「丸矢さん、警察には連絡してくださいました?」
 女性が尋ねてきた。髪が長く、品のある顔立ちをしている。しかしその表情には拭《ぬぐ》いがたい不安が影を落としていた。
「いや、それが……」
 丸矢は口籠《くちご》もる。その態度に女性の表情がまた曇った。
「……もしかして、父のほうから何か言われたのですか」
「……はい、社長から直々に、警察には連絡するなと」
「まあ、なんて……なんてことなの」
 女性は手で口許を覆った。
「孝治《こうじ》さんがどこにいったかわからないというのに……」
「まだ警察沙汰にするべきことではない、というのが社長の判断です。もしかして……」
 丸矢は言いにくそうに、
「もしかして、田波さんが御自分の意志でどこかに行かれてしまったかもしれない、と」
「孝治さんが私を置いて? そんなこと、あるものですか! そんなこと……!」
 女性は塔の石壁に寄り掛かり、嗚咽《おえつ》を漏らした。彼女と一緒に塔から出てきた男が、女性の肩に手を置こうとしたが、途中でその手を引っ込めた。そして気づかわしげに女性の背中を見つめている。
「宮下《みやした》君、やはり田波さんはいないんだね?」
 丸矢に訊《き》かれ、その男は頷いた。
「くまなく探してみましたが、どこにも。そんなに広いところではないし、隠れるような場所もないのですが」
「やはりそうか。致し方ないな」
 丸矢が頭を振ると、摩神に眼を向けた。
「こんな状況なのです。あなたに田波さんの行方がわかりますか」
 すると摩神はあっさりと、
「そんなものは知らんよ」
 と言った。
「僕は田波とかいう奴の居所などに興味もない。ただ僕は、謎を解きにきただけだ」
「謎を、解きに……?」
 泣いていた女性が、その言葉を聞いて顔を上げた。
「もしかして、あなたが摩神さん?」
「そうだ、僕が摩神尊だ」
「ああ……あの手紙は本当だったのですね。ただの悪戯《いたずら》だとばかり……でも、まるで最初からわかっていたみたいに……」
「わかっていたのさ。だから予告した」
 摩神は言った。
「では、これはあなたの仕業なのですか。あなたが孝治さんをどこかへ? どうして、そんなことをしたのですか!? あのひとは、どこにいるのですか!? 教えてください!」
「最初の質問に答えよう」
 摩神は言った。
「田波とやらの失踪《しっそう》に、僕は無関係だ。よって第二の質問、なぜそんなことをしたのか、という問いは無効となる。そして第三の質問、田波はどこかという問いに対する答えは、さっき丸矢君に言ったとおりだ。そんなことは知らない。だが、謎が解ければ、わかるかもしれんな」
「あんた、一体何を言ってるんだ!?」
 宮下が怒鳴った。
「史織《しおり》さんを混乱させて楽しんでるのか。いや、彼女だけじゃない。我々みんなを馬鹿にしているのか」
「とんでもない。僕はいたって真剣さ。ただ君たちが愚鈍なせいで、僕の真摯《しんし》な態度を理解できないだけだ」
「愚鈍だと!?」
 男が摩神の襟を掴んだ。
「言っていいことと悪いことがあるぞ!」
「やっていけないことと、やると不幸になることもな。君がやっているのが、まさにそれだ」
 摩神は襟を掴んでいる宮下の手を握った。本人は手加減したつもりだろうが、宮下は情けない悲鳴をあげて体を捩《よじ》った。
「痛い! やめろ! 手が! 手が折れる!」
「最初に手を出したのは君のほうだ。それなのにやめろと言うのか。つくづく勝手な男だな」
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